2016/01/14

遠い夏

  遠い夏
   黒崎立体


遠い、としか言えないような
夏をいつのまにか持っていた
のぞきこめば
そらのひかり、植物の気配、ぬるい打ち水、
すべては断片で
どうしようもなく

ときおり、洗たく物から
ふっと嗅ぐ漂白剤に
たとえば呼び起こされて
仕事帰りの母からは
夏でもつめたい匂いがした
くすんだ色の、
目かくしの布をながめるのが好きだった
ベランダの窓をすこしだけ開けて
切り取った空に凭れて
きょうとあしたの
区別なんて知らなかった

すべては、断片で、
だれが砕いたわけじゃない
つなげることもできずに ただ
遠い、としか言えないような
夏を
いつのまにか持っていた



(初出:『詩と思想』2012年06月号投稿欄)

遠い夏